チャイルドラインびんごの取り組みの軌跡

―リフレクティング・プロセスに関する再検討と調査・研修の記録―

[対談:赤木恵子×矢原隆行]

矢原 こんにちは。今日はチャイルドラインびんごにおけるリフレクティング・プロセス

      の取り組みの軌跡について、現在、チャイルドラインびんご研修・イベント部会長

      である赤木さんとともに振り返ってみたいと考えています。よろしくお願いしま

   す。

 

赤木 よろしくお願いします。私自身、チャイルドラインびんごの立ち上げ当初のことに

   ついては知らないこともありますので、そのあたりを教えていただければと思いま

   す。

 

<リフレクティング・プロセス への取り組みの四つのステージ>

<<①第一ステージから第二ステージ>>

 

矢原 チャイルドラインびんごにおけるリフレクティング・プロセスの取り組みは、大き

   く分けると現在までに四つのステージを経てきているといえます。赤木さんが作成

   してくださった年表に沿って見ていきましょう。

年表
p38_39ol.pdf
PDFファイル 376.7 KB

   まず、第一ステージは、「チャイルドラインびんご立ち上げ当初におけるリフレクティ

   ング・プロセスの導入期」で、これが二〇〇二年の準備会立ち上げの時期から、いろい

   ろな試行錯誤などをを含みながらも、二〇〇七年の前半まで続いたと考えられるでしょ

   う。このステージにおける取り組みでは、私自身がチャイルドライン向けに改良したリ

   フレクティング・プロセスをチャイルドラインびんごの皆さんに提案し、基本的にはそ

   れに忠実に振り返りの方法としてリフレクティング・プロセスを試みていただいたよう

   に思います。養成講座でも、私自身が毎回リフレクティング・プロセスに関する講義を

   担当させていただきました。チャイルドライン自体もそうですが、リフレクティング・

   プロセスも皆さん初めての試みでしたから、多少ぎこちない面もあったように思います

   が、さまざまな気づきも得られた意義深い段階だったと思います。この段階を踏まえて

   のリフレクティング・プロセスへの皆さんの評価については、『チャイルドラインびん

   ご常設一周年記念報告集』(二〇〇六)にも詳しく紹介されていますね。

 

   第二ステージは、「リフレクティング・プロセスに対する問題提起と反省期」といえる

   でしょう。明確には二〇〇七年六月から二〇〇八年六月くらいの期間で、リフレクティ

   ング・プロセス・ワーキング・グループがチャイルドラインびんご内に立ち上がった時

   期です。赤木さんは、ここに参加なさっていたのですよね。


赤木 はい。そうですね。この頃から本格的にチャイルドラインびんごにおける振り返りや

   研修のあり方などを仲間たちと一緒に考え始めたように思います。

 

矢原 あらためて思い返すと、この段階の伏線は、すでに第一のステージの後半には始まっ

   ていたともいえます。二〇〇六年三月に私は職場の変化により福山市を離れたのです

   が、こうしたボランティア活動の難しさで、びんごの運営委員や電話ボランティアもだ

   んだんメンバーの入れ替わりなどがあって、これまでのやり方で本当に大丈夫なのか問

   い直す雰囲気も出てきていたように思います。そうしたなかで、私からは二〇〇七年六

   月の総会の折、びんごの皆さんにリフレクティング・プロセスへの取り組みに関する共

   同研究のご提案などもさせていただいたのですが、それに対する反応もかなりまちまち

   でした。

   しかし、もしかするとそれも刺激になったのかもしれませんが、皆さんの自主的な動き

   としてリフレクティング・プロセス・ワーキング・グループが立ち上がったわけです

   ね。

 

赤木 はい。私たちが最初に取り組んだのは、これまでそれぞれに感じていたリフレクティ

   ング・プロセスの問題点について、自分たち自身で検討していくため、皆から意見を集

   めて整理することでした。大変でしたが、KJ法などについてのアドバイスもいただき

   ながら、自主的に作業を進めることができたことは大きかったですね。


赤木 こうした整理を踏まえて、二〇〇七年九月にリフレクティング・プロセス・ワーキン

   グ・グループを立ち上げ、リフレクティング・プロセスの基本姿勢を習得していただく

   ことを目的に電話ボランティアさんの勉強会を実施しました。より分かりやすく理解し

   ていただくために実際話したり、体を動かしたりするワークショップをメンバーで工夫

   して体感していただきました。


矢原 私がおこなっていた養成講座での講義などに比べ、とても多様で親しみやすいワーク

   がいろいろ工夫されていて感心しながら拝見していました。

リフレクティング・プロセスをめぐる課題についての整理(要約)
p42.pdf
PDFファイル 156.7 KB
勉強会実施内容(一部)
p43.pdf
PDFファイル 228.7 KB

<<②第三ステージ>>

 

矢原 その後、チャイルドラインびんごが部会制に移行した二〇〇八年六月からを第三

   ステージ「チャイルドラインびんご独自のリフレクティング・プロセスの消化・

   吸収期」と呼べるでしょうね。

 

赤木 そうですね。ワーキング・グループで取り組んでいたリフレクティング・プロセ

   スについての勉強会やワークショップは、研修・イベント部会に引き継がれること

   となりました。どうすればメンバーの皆によりわかりやすく実感していただける

   だろうかという課題について、研修・イベント部会内で議論し、あらためて矢原

   先生とも相談した結果、すべての電話ボランティアさんにリフレクティング・プ

   ロセスについて共同でアンケート調査を実施することにしました。調査について

   は、二〇〇八年十一月に実施しました。

 

アンケート結果(一部)
p44_45ol.pdf
PDFファイル 179.0 KB

 

赤木 このアンケート調査の結果より、リフレクティング・プロセスで問題提起した方は

   約三割にとどまりましたが、「特に何もしていない」と答えた方が結構多くこの

   方たちのフォローをするためには従来試みていたリフレクティング・プロセスを

   見直す必要性を改めて認識しました。そして、現在の事例検討会形式のリフレク

   ティング・プロセス研修が本格的にスタートしました。これは、一事例あたり約

   1時間とじっくり時間をかけてリフレクティング・プロセスをおこなうもので

   す。一回の研修会では2事例実施し、参加者は毎回十名程度、矢原先生ご持参の

   「トーキング・パンダ」を用いて互いの発言の機会を尊重することにより、多様

   な見方や気付きが得ることができています。

   研修参加者への事後アンケートの評価もかなり好評で、手ごたえが感じられま

   す。ようやくチャイルドラインびんごにふさわしいリフレクティング・プロセス

   の仕組みができた気がします。今後も定期的に研修を実施する予定です。


矢原 そうですね。人手の問題などで毎回の電話の振り返りごとに十分な時間をかけた

   リフレクティング・プロセスをおこなうことは、現状では難しいでしょうから、

   こうした事例検討の機会を定期的にじっくりともつことで、リフレクティング・

   プロセス本来の気づきや学びを実感していけると良いですね。

   それは日常的な電話でのコミュニケーションや振り返りにもいきてくると思いま

   す。

 

研修後の参加者の声(一部)
p46_47ol.pdf
PDFファイル 366.5 KB

<<③第四ステージ>>

矢原
 そして、この二〇〇九年四月からリフレクティング・プロセス・プロジェクトとし

   て、研修・イベント部会長の赤木さん、広報部会長の橋原さんと私で取り組んでいるの

   が、研修の充実とリフレクティング・プロセス周知のための手引書作成ですね。そうい

   う意味では、二〇〇九年四月以降を第四ステージ「チャイルドラインびんごの外部に向

   けたリフレクティング・プロセスに関する情報発信期」と呼べるでしょう。

 

赤木 リフレクティング・プロセスについて自分たちなりに試行錯誤を続けているチャイル

   ドラインびんごだからこそ、その成果をより広くさまざまな仲間たちと共有していけれ

   ばと考えています。橋原さんの手による大変分かりやすくて親しみやすいリフレクティ

   ング・プロセスの手引書もぜひ活用してほしいですね。

 

矢原 そうですね。他地域のチャイルドラインはもちろん、さまざまな電話相談に携わる方

   々に役立つ可能性がリフレクティング・プロセスにはあると思います。すでに心理臨床

   の領域や社会福祉の領域などでリフレクティング・プロセスの応用は国内でも展開しつ

   つありますが、私自身、このチャイルドラインびんごにおけるようなボランティアによ

   る取り組みには大きな期待を寄せています。今後も楽しみですね。

 

   紙芝居で見るリフレクティング・プロセス劇場>>