電話相談ボランティアにおける リフレクティング・プロセスの試み

[対談:矢原隆行×安原晶子]

※第一章「電話相談ボランティアにおけるリフレクティング・プロセスの試み」より一部抜粋

安原 矢原先生、今日はよろしくお願いします。

   私が、今日、先生におうかがいしたいと考えていますのは、私たちのチャイルドライン

   びんごで取り入れています「リフレクティング・プロセス」という研修の試みと可能性

   についてです。私たちのチャイルドラインびんごは、発会当初から、電話ボランティア

   研修に「リフレクティング・プロセス」という方法を取り入れてきました。

 

   子どもたちの声を聴いた電話ボランティアさんたちが、コミュニケーションを行ない、

   互いに観察し合うことによって、新たな気づきを得、相互に高まり合っていこうという

   ことで行なっているわけですけれども、この「リフレクティング・プロセス」の提案

   は、チャイルドラインびんごを運営している子どもサポネット「ハートフル」に初めか

   ら関わっておられる矢原先生からでしたね。

 

   実際、私たちも、専門家ではない私たちが、電話ボランティアさんたちに「本当にこれ

   で良かったの?」と言われても、自信を持ってそれに答えることはできませんし、ボラ

   ンティアさんたちに頼られても「支える」ことはむずかしい、と思っていましたので、

   先生の提案には、とても共感しました。

   そこで、先生にお聞きしますが、そもそもチャイルドラインびんごに「リフレクティン

   グ・プロセス」を取り入れようと思われたきっかけは、なんだったのでしょう?

   「リフレクティング・プロセス」についても、簡単にご説明いただいてから、お答えい

   ただけますか?

 

矢原 大きなテーマですね。

   では、まず「リフレクティング・プロセス」についての簡単な説明からいきましょう。

 

リフレクティング・プロセスは、相互に観察しあう中で自分を客観視できるしくみ

矢原 「リフレクティング・プロセス」という実践は、もともとはノルウェーの精神科医ト

   ム・アンデルセンという人が提唱したものです。この人は家族療法を用いる精神科医で

   した。

   それまでの家族療法は、面接者(カウンセラー)が相手の家族と対峙しながら、マジッ

   クミラー越しには、隣にもうひとつ部屋があって、その向こうから専門家集団が面接の

   様子を観察して、面接者に対していろいろ指示を送ったりするという形をとっていまし

   た。そうしたなかで、トム・アンデルセンという人は、専門家の側が一方的に観察し、

   その対象を判断して指示を与えるというあり方について疑問をもちまして、ある日、有

   名な話ですけれども、マジックミラーの灯りと音声を切り替えたわけです。そうする

   と、これまで観察していた側が逆に観察される立場に、また、観察されていた側は観察

   する立場になります。そうやって専門家側の議論のプロセスを全部、その家族に見せた

   わけですね。この結果、問題を抱えた家族が、一方的に見られるという立場から、自分

   たちのことについて話し合っている人たちを客観的に見るということができるようにな

   ります。

 

   つまり、自分たちの抱える問題を外在化して見るという経験をするわけですね。一方

   で、専門家の側は、自分たちが見られるという経験を初めてするわけです。このことに

   より、言葉遣いなども鏡の裏側とはずいぶん変わって、そもそも対象を見る目線自体が

   より対等なものになっていったという変化がありました。

   すなわち、リフレクティング・プロセスというしくみを取り入れることのポイントのひ

   とつは、一方向的な上からの観察や助言という、一段高いポジションから何かを与える

   というのではなく、相互に観察しあう中で自分自身を客観視する機会を得ることができ

   るということです。こういう方法をリフレクティング・プロセスと最初にトム・アンデ

   ルセンは呼びました。

 

   リフレクティング・プロセスという方法は、いろんな場面に応用が利くということにト

   ム・アンデルセンも気づいていたのですが、家族療法以外の場面でも、ある問題につい

   て話し合っているグループを観察するグールプ、今度は、その観察したことを自分たち

   で話し合うグループ、それをまた、もともと話し合っていたグループが観察する、とい

   う、相互に観察をしあうしくみをつくることによって、いままでとは違った側面に気づ

   くことができます。